度重なるアクシデントを乗り越え、1991年4月のデビューから8ヶ月でその生涯を閉じた快速馬ケイエスミラクル。わずか10戦のキャリアの中で3度のレコードタイムを記録した奇跡の名馬の活躍を、当記事では振り返っていく。
ケイエスミラクルは1988年3月16日生まれの元競走馬。父Stutz Blackhawk、母レディベンドフエイジヤー、母の父Never Bendという血統の米国産馬である。
父はミスタープロスペクターの直仔で、アメリカで現役生活を送り3勝を挙げた競走馬。1990年代前半当時はキングマンボ系(エルコンドルパサー、キングカメハメハなど)やフォーティナイナー系(アドマイヤムーン、スイープトウショウなど)が確立されておらず、メジャーな血統ではなかった。ケイエスミラクルはそのような時期に活躍したミスタープロスペクター系競走馬である。
3歳(旧2歳)の秋にアメリカから来日を果たした。生まれつき患っていた日本脳炎による高熱が続き、デビューはおろか命すら危ぶまれていたが、奇跡的に回復。しかしデビュー前に深刻な脚部不安を発症する。これも奇跡的に快方に向かい、二度の奇跡から立ち直ったことから冠名の『ケイエス』に『ミラクル(奇跡)』という馬名が与えられ、競走馬『ケイエスミラクル』号としてデビューすることとなる。
旧4歳(現3歳)の4月にデビューを迎えたケイエスミラクルは新潟競馬場で行われた4歳未出走戦で2着となったが、折り返しで迎えた5月の4歳未出走戦で2番手追走から8馬身差の圧勝で初勝利を飾った。
連闘で臨んだわらび賞(500万下)を挟み、6月の札幌開催に出走。石狩特別(500万下)で4馬身差のレコード勝ちを見せると、続く藻岩山特別(900万下)では単勝1.1倍の圧倒的支持を受け、これに応えて9馬身差の圧勝劇を見せた。
ケイエスミラクルは休養を経て、セントウルS(G3)に格上挑戦を果たした。重賞初挑戦となった始動戦は13着と大敗を喫したが、続く10月のオパールS(OP)を完勝。勝ち時計の1分08秒4はレコードタイムだった。この実績を提げて、ケイエスミラクルは2度目の重賞挑戦となるスワンS(G2)へ向かう。
1991年のスワンSには安田記念を制した名牝ダイイチルビー、類稀なる先行力とスピードを武器に重賞戦線で活躍していたダイタクヘリオス、当時すでにG1を2勝していた古豪バンブーメモリーなどが集結しており、ケイエスミラクルは単勝5番人気の評価だった。
しかしレースでは先手を取るダイタクヘリオスが沈む中、番手から先行抜け出しを図ったダイイチルビーをクビ差抑え込み、ケイエスミラクルが初の重賞制覇を果たす。勝ち時計の1分20秒6は当時の日本レコード。ケイエスミラクルにとっては3度目のレコード樹立だった。
前哨戦を制したケイエスミラクルは11月のマイルCS(G1)に出走。G1初挑戦を果たす。ダイイチルビーに次ぐ単勝2番人気に支持され、レース本番では逃げ粘るダイタクヘリオスと鋭く伸びたダイイチルビーを捉え切れず3着となった。その後、12月のスプリンターズS(G1)へ向かう。
1991年のスプリンターズSではダイイチルビーを抑えてケイエスミラクルが単勝1番人気に支持された。レースは前半3Fが32秒2というハイペースで進行、ケイエスミラクルは中団馬群に位置を取る。第4コーナーから直線にかけて、ケイエスミラクルは抜群の手応えで先団に進出。しかし直線に入った瞬間、突如失速。ずるずると後退し、ダイイチルビーが4馬身差の圧勝で2度目の栄冠を手にするなか、ケイエスミラクルがゴールポストを越えることはかなわなかった。
診断の結果、ケイエスミラクルは左第一趾骨粉砕骨折と診断され、予後不良・安楽死の措置が取られた。
デビューからわずか10戦のキャリアの中で、日本競馬のスピードの頂点に名を連ねたケイエスミラクル。本項では、当馬と鎬を削ったライバルを紹介する。
1991年のJRA賞最優秀5歳以上牝馬およびJRA賞最優秀スプリンターに輝いた快速牝馬。『華麗なる一族』と称される名門・マイリー牝系の出身で、母は1980年の二冠牝馬ハギノトップレディ。二代母は1973年と1975年にJRA賞を受賞した名牝イツトー。叔父に1983年の宝塚記念覇者ハギノカムイオーがいる超良血馬。
その血統から、当時では破格となる1億円で取引され、グレード制導入後の安田記念を牝馬として初めて優勝。また同年のスプリンターズSを制した。生涯獲得賞金は4億円に達し、牝馬の歴代最高賞金記録を樹立している。
1991年から1992年にかけてマイルCSを連覇するなど、重賞7勝を挙げた快速馬。ハイペースをものともしない持続力、短期間に出走を重ねてもパフォーマンスの鈍らない強靭なタフネス、そしてレースを序盤から牽引する卓越した先行力で数々の勝ち星を量産し、日本競馬史上4頭目となる獲得賞金6億円超えを達成した。
短距離路線を主戦場としていたが、1992年の毎日王冠では斤量59kgを背負いながらレコードタイムで逃げ切り勝ちを収めるなど、芝1800m以上のレースにも果敢に挑戦。生涯で3度のレコードを計時している。
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