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無敗で駆け抜けた男たち
田中将大 選手 × 福永祐一 騎手 × 松山弘平 騎手

ASK A QUESTION
心技体のピーク、投手としてのゴール、集中力の高め方……三冠ジョッキーがマー君に問う!

2021.1.25

#田中将大#福永祐一#松山弘平

──対談にあたり、田中投手は「緊張感との向き合い方」について聞いてみたかったとおっしゃっていましたが、福永騎手と松山騎手は、この機会に田中投手に聞いてみたいことはありますか?

福永:今、32歳でしたっけ? 僕はもう44歳で、ジョッキーとしてのキャリアは限られていますが、残されたキャリアやその後のことを考えることはありますか?

田中:正直、今はまだ考えてないですね。ただ、19歳になる年からずっと一軍で投げさせていただいてきて、やはり身体的な感覚として若い頃と同じというわけにはいきません。そういう現実とどう向き合って、今の自分の感覚でどうパフォーマンスを発揮していくか。それは常に考えていますね。

福永:“心技体”という言葉があるけれど、体力的には当然、若い頃のほうが優れていますよね。ただ、心技の部分でいうと、今のほうが引き出しも経験則も多いから、若い頃と同じ馬に乗ると仮定した場合、いい結果を出せる自信は今が一番あるんです。ジョッキーは自分が走るわけではないから選手寿命も長いし、特殊な競技だとは思うんですが、投手の場合、心技体のトータルが一番充実しているのは何歳くらいなんですか?

田中:ただただ投げることだけに集中できたのは、20代の中頃までだったかなと思いますね。

福永:それ以降は、やはり心技の部分でカバーせざるを得なくなってきたということですか?

田中:そうですね。

──そのときどきの自分の体や調子に合ったベストを探しながら投げるということですか?

田中:はい。メジャーリーグでは、32~34試合が先発の機会になるのですが、本当に絶好調で、面白いように相手を抑えられる日なんて片手で数えられるくらいしかないんです。それ以外は、「今日はここがあまりよくないな」というところが必ずあって、そこを修正しながらアジャストしていって相手を抑えていかなければいけない。そのためには、やはり経験値を積んだメンタルだったり、自分がこれまでに培ってきた技術を駆使する必要がありますからね。メジャーでいうと、僕のストレートの速さは平均以下なので、力技では通用しない。だから、いろんな位置にいろんな球種を投げていかないと抑えられないんです。だから、なおさら心技の部分は大事ですね。

福永:ずっと追い求めている究極のピッチングみたいなものはありますか?

田中:自分の武器はコントロールだと思っているので、やはり狙ったところに投げることを追求しているわけですが、ストレートも変化球も、全球を通してキャッチャーが構えたところにビシッと投げられるのが究極ですね。

──その究極に近いピッチングができる日もあるんですか?

田中:あります。すべてを思い通りに投げられたときは、本当に気持ちがいいです。でも、そんな日はなかなか…(苦笑)。逆に、ジョッキーの方たちにとって究極の騎乗というと?

福永:馬がなんのストレスもなく伸び切れているという感覚を得られる騎乗ですね。そういうのを人馬一体と言うのかもしれませんが、今までジャスタウェイでドバイデューティーフリー(2014年)を勝ったときしか味わったことがないんです。あの感覚が忘れられなくて、今も追い求め続けているんですけど、やはり簡単ではなくて。

田中:少しでも思い通りにいかないことがあると、いろんな雑念が入ってきますからね。僕も、打たれたくないとかネガティヴな要素が入ってしまうと力みが生じたりして、そこからすべてがズレてきてしまう。

福永:わかります。僕たちも同じです。「今日はスタートを出していきたいな」とか思ったときほど、突っかけて遅れたりする(苦笑)。それこそ、「スタートを出したい」という邪念ですよね。

松山:僕も、そういうときは大抵躓きます(苦笑)。僕が今日お聞きしてみたいなと思ったのは、集中力についてです。大事な一戦の前など、集中力を高めるために何かしていることはありますか? たとえば、前日の過ごし方とか。

田中:前日までは、何気ないことも含め、至って普通に過ごすようにしています。ただ最近は、次の日に当たる相手の分析とか、明日自分がやろうと思っていること、そのときの自分の気持ちなどを整理して、ノートに書いたりしています。

松山:当日は、試合までの時間をどう過ごしていますか?

田中:当日も少し書き留める作業をして、あとはチームにメンタルのコーチもいるので、コーチと一緒に今日の体調、状態、メンタルなどをひとつひとつ確認していきます。そこから、じゃあ今日は何をしていくべきなのか、何をしなければいけないのかを、もう一回自分のなかに入れて。で、これで大丈夫だというところまで持っていって、ゲームに入っていく感じです。とにかく、状況や気持ちなどを書くことが増えました。今までそんなことはしてこなかったんですけどね。

松山:書くようになってから、何かが変わりましたか?

田中:そうですね。集中力にどう繋がっているのかはわかりませんが、「あのときはこういう気持ちで、こういう結果だった」というのが見返せることが大きいです。人間はやはり、忘れてしまうことが圧倒的に多いじゃないですか。でも、思い出せることが増えると、引き出せる要素も増えてくるので、今はけっこう大事にしていますね。

松山:そういえば、祐一さんも競馬新聞にいろいろ書いてますよね。

田中:書きながら作戦を立てているんですか?

福永:まぁそうですね。7年くらい前から始めたんですけど、まずは1レースずつ自分の状況をチェックして、いいタイムを持っている馬、そのコースで勝率がいい血統、ジョッキーをチェックしてから、相手を絞っていくんです。その結果、相手と見込んだ馬が7、8頭いるときもあれば、2、3頭のときもありますが、そこからレースのイメージ作りをして、この相手に勝つためには自分はどうするべきかをシミュレーションしていく感じです。

松山:なるほど。それを始めてから、やっぱり変わりました?

福永:うん。相手のことがしっかり頭に入っているというのは大きいかもしれない。

田中:準備の仕方は人によって違うから、面白いですよね。僕も気になっていました。

松山:いろいろ教えていただいてありがとうございます。世界で活躍されているすごい方なので、どういう気持ちの作り方をされているのか、すごく興味があったんです。勉強になりました!