ACHIEVEMENT
トップアスリートのキャリアの重ね方
2021.1.12
田中:福永騎手、松山騎手、無敗の三冠達成おめでとうございます!
福永松山:ありがとうございます。
福永:ジャパンCの馬券は当たりましたか?
田中:ハズレました…(苦笑)。デアリングタクトが本命だったんです。3歳牝馬は斤量が軽いですし、過去の結果を見ても好成績を残していたので。
松山:本命に推していただいたのに、3着で申し訳なかったです。
田中:いえいえ(笑)。素晴らしいレースでした。
──田中選手のTwitterを拝見していましたが、ジャパンCをすごく楽しみにしていらして。
田中:同じ年に無敗の三冠馬が2頭誕生するだけでもすごいことなのに、その2頭の対決にアーモンドアイという歴史的名馬が加わったわけですからね。この先、こんな豪華な対決は二度と見られないと思ったので、すごく注目していました。リアルタイムで見られるなんて、幸せだなぁと思いましたね。
──3頭の三冠馬対決が決まって以降、福永騎手と松山騎手はどんな気持ちで過ごしていましたか?
福永:菊花賞のダメージが思ったより大きかったので、ジャパンC当日までに馬のコンディションがどこまで上がってくるのか、そればかりが気になっていました。体調が戻らなかったら回避するというのはオーナー、トレーナーとの共通認識だったので、正直、1週前くらいまでは参戦できるかどうかという状態だったので。
──直前になって、コンディションが整ってきた?
福永:そうです。体調に関しては、ほぼ戻っていたと思います。ただ、精神面は結果的にストレスが抜けていない気がしましたね。ゲートでも今までで一番暴れていましたし。弘平も隣(デアリングタクトが3枠5番、コントレイルが4枠6番)だったからわかったでしょ?
松山:はい。僕の馬もゲートでおとなしくしているタイプではないので…。
福永:俺たち2頭で暴れていたもんな(笑)。ただ、「これなら力を出せる」というくらい体調は戻っていたから、アーモンドアイを相手にどれだけやれるか楽しみだった。弘平もジャパンCは楽しめたんじゃない?
松山:はい。プレッシャーよりも楽しみのほうが大きかったです。三強のなかに自分がいられるというのもすごくうれしかったですし、秋華賞後の馬の状態もよかったので。アーモンドアイとコントレイルを相手に現時点でどこまで通用するのか、ジャパンCを通して知りたいという気持ちがありました。
福永:ゲートでうるさかった割には2頭ともいいスタートを切って。
松山:はい。でも、4コーナーの手前で手応えが悪くなって…。4コーナーを回るとき、本当はカレンブーケドールの位置にいたかったんですけどね。
福永:後ろから見ていて、「あ、もう脚がないんやな」と思った。だからかわして行ったんだけど、あとからまた伸びてきたよな。
松山:コントレイルに馬なりでかわされたときは、正直、もうダメかなって。でも、そこから盛り返して3着まできて、やっぱりすごい馬だなと思いましたね。4コーナーの手応えからすると、もっと沈むなという感じだったので。
田中:ゴール前は、すごく興奮しましたよ。今日、お会いしたら聞いてみたかったんですけど、やっぱりGIともなると緊張するものですか? ジャパンCに限らず、緊張感とはどう向き合っているのかなと思いまして。
福永:25年近くジョッキーを続けてきた今、自分はどういう緊張状態にあるときに一番パフォーマンスが上がるかを把握できてきたところがあるので、今は過度な緊張はしません。もちろん、そうやってコントロールできるようになったのは、これまで様々な緊張や失敗を経験してきたからですけどね。それに、緊張できる機会って貴重だなと思うんです。たとえばジョッキーを辞めたあと、同じ緊張を味わえるかといったら、なかなかそんな機会はないじゃないですか。
田中:そうですよね。それは僕も思います。
福永:だから、今はその機会をすごく楽しんでいるというか。三冠が懸かった前の晩はどういう気持ちになるのかなとか、自分の気持ちの変化が面白かった。とにかく、自分の身に訪れることのすべてを受け入れようと思っていました。
──結果的に、菊花賞前日にはどんな変化が訪れたんですか?
福永:思ったほどの変化はなかったんですけど(笑)。前の晩、ふと空を見上げたら、すごく月がきれいで。こんなにいい天気のなか、三冠が懸かった一戦に乗れるなんて、最高だなと思ったり。
松山:すごい(苦笑)。とてもじゃないけど、僕はそんな余裕はなかったです。
福永:弘平は緊張してたよね。当然だよ。
松山:楽しめる状況ではまったくなかったですね。とにかく早く終わってほしかった。「時間が解決してくれる」ってずっと言い聞かせていました。
福永:田中投手は緊張ってします?
田中:します。めちゃくちゃします。
福永:それは毎回ですか?
田中:毎回ですね。試合前のウォーミングアップのときとか、めっちゃ緊張します。
福永:その緊張が解けるのは、どういうタイミングですか?
田中:自分のすべきことにしっかりフォーカスしていって、マウンドに立ってアウトを重ねて、自分のリズムに持っていけたときですかね。ある程度リズムが取れるようになるまで緊張感は続きますが、緊張しないときのほうが僕はダメな気がします。なんとなくゲームに入ってしまうと、すべてがなんとなく進んで散漫になって。むしろ、ゲームに入るまでどうしようもないほど緊張して、ゲームのなかでリズムをつかんでいく。結果、ゲームに入り込んでいるというときのほうが、振り返ってみるといい仕事ができているような気がします。
──お話を伺っていると、勝負の世界に生きるアスリートにとって、緊張感との向き合い方は肝と言えそうですね。
田中:はい。すごく大事なことだと思います。うまく対処できない人は、投球練習のときはすごくいいのに、ゲームになるとやっぱりちょっと…。そういうピッチャーってけっこういるんです。そういう人を見ていると、緊張感との向き合い方、処理の仕方があまり上手ではないのかなと感じます。
福永:ただでさえ、ピッチャーというポジションは注目されますものね。
田中:ピッチャーが投げないとゲームは動きませんから、どうしても注目はされます。そのぶん責任も大きいわけですが、成功したときはやっぱり気持ちがいいです。
──チーム競技ではありますが、やはり戦いの最中は孤独を感じますか?
田中:孤独……そうですね、大変だなと思うことはあります。とくにアメリカは1番から9番までホームランを打てる選手が揃っていて、なおかつデータをもとに徹底した分析をしてくる。そういうチームが一丸となって投手を崩しにくるので、すごく大変なポジションです。ただ、それらを抑えたときの気持ちというのは、まさに何にも代え難いものがありますね。
──緊張感をコントロールして楽しめるようになったという福永騎手同様、田中投手もそうやって何年も戦い続けてきたからこそ、今の境地に辿り着いた。
田中:そうですね。逃げたら何も得られないと思うので。失敗もたくさんしてきましたけど、逃げずに立ち向かってきたからこそ、今があると思っています。