1990年代といえば、武豊騎手とオグリキャップの登場に端を発する競馬ブームで競馬場は常に大盛況。若手騎手や馬のアイドル化と商品化、徹夜からの開門ダッシュ、本格的なカメラでの写真撮影など、競馬観戦文化が育ったのもこの年代でした。
なかでも1990年のダービーは、19万人強の入場人員と“ナカノコール”が伝説ですが、筆者の記憶に鮮烈に残るのは、直線でのスタンドの大歓声で鼓膜が圧迫されて、逆に音が聞こえなくなる体験です。
1989年、毎日王冠のオグリキャップとイナリワンの叩き合いで初めて経験しましたが、レース後すぐに直るので、歓声と熱気で瞬時に異常な高気圧が発生しての現象ではなかったかと思います。
ダービーでは、激戦だった93年にもこの現象に見舞われました。ものすごいパワーが競馬場にあった時代だと思います。
毎年いくつもの名門牧場から優駿が現れ、どんな血統の馬が、どの調教師、どの騎手の元で育てられ、ダービー馬となるのか。予測不能な楽しさが、この頃にはあったなと思いますね。
トニービン、ブライアンズタイム、そしてサンデーサイレンスの産駒がダービーを勝ち、それらが優秀な血統を継いで、海外でも活躍できる現在の日本競馬につながっています。1990年代は、その前夜のような時代でもあったと思います。
1966年3月31日生まれ。1994年5月、JRAプレス章貸与を受け撮影活動開始。「netkeiba.com」では2005年以降、主に地方・海外を担当。他に掲載は「優駿」「競馬ブック」「Racing Post」「Blood Horse」ほか。