(取材・構成=不破由妃子)
──矢作先生、キャプテンさん、今日はよろしくお願いします。今回は、12月30日のKEIRINグランプリ(立川)を前に、競馬ファンに競輪の面白さを伝えようという企画でして、おふたりには“競輪愛”を思う存分、語っていただきたいと思っています。
キャプテン:わかりました!それにしても、矢作先生が大の競輪好きとは…。僕、存じ上げなかったです。今でもしょっちゅう買ってらっしゃるんですか?
矢作:もちろん。今日も(この取材に)3分ほど遅れてしまったのは、松山(競輪)の最終の予想に手間取って…(苦笑)。
キャプテン:そーゆーことか!
矢作:でもまぁ嫌な時代になったよねぇ。競馬もそうだけどさ、ドバイにいてもメルボルンにいても(車券を)買えちゃうんだから。
──まんまと“時代”に踊らされちゃってるワケですね(笑)。そもそもおふたりが競輪にハマったきっかけというのは?
矢作:高校生のときに、競輪好きな先輩の影響で興味を持ったのがきっかけです。その頃は、中野浩一さんがスーパースターでねぇ。彼のレースが観たくて、取手競輪まで行ったんですよ。そうしたら、俺の目の前で中野浩一さんが負けた。「世界で一番強い人が、なんで負けるんだろう…」と思って、逆に興味が深まったという。
キャプテン:ああ、その感じわかります。僕は中学のときに、身近に競輪選手を目指しているヤツがいて。静岡競輪場のものすごく近くに住んでいたこともあって、そいつはレース観たさに普通に競輪場に行ってたんですよ。で、僕もついて行ったのがきっかけですね。
矢作:そうなんだ。静岡といえば、日本一客が入る競輪場だもんな。
キャプテン:はい。僕の時代は、吉岡稔真(としまさ)さんがスーパースターでした。競馬でも、強い馬のレースを生で見るのが醍醐味だったりするじゃないですか。だから、「ナリタブライアン強ぇ~!!」みたいな感じで吉岡選手を見ていて、そこからハマっていきましたね。まぁ、のちのちギャンブルとしての面白さも知ってしまうわけですが(苦笑)。
──競輪といえば、毎日のように開催がありますが、先生はどのくらい“参戦”されているんですか?
矢作:たとえば365日開催があるとしたら、360日は買ってます。
キャプテン:エーーーッ!!!ちなみに、一日何レース買うんですか?。
矢作:今は基本的にS級とA級上位(競走馬のように選手がクラス分けされており、上からS級S班、S級1班、S級2班、A級1班、A級2班、A級3班。その階級によって、出場できるレースが決まってくる)しか買わないので、少ないときは15レースくらいだけど…。たとえば今日でいうと、大垣と大宮と和歌山を買って、夜は夜で松山を買っているから、だいたい一日で35レースくらいかなぁ。
キャプテン:アハハハ!もう何なんですか!日々競馬のことで頭がいっぱいかと思いきや…。
矢作:趣味で調教師やってます(笑)。真面目に言うとね、競輪の予想をしているあいだは、馬のことが頭から離れる。調教師になってからは、あんまり現場(競輪場)には足を運べないんだけど、俺の読み通りに4コーナーを回ってきて、ハマったときの快感といったら…。もうね、それだけのためにやってる感じだよ。
キャプテン:僕はね、お金がないからギャンブルをやってるんですよ。だから、お金がある人がギャンブルをやる理由がイマイチわからなくて。先生もそうですけど、(武)豊さんも、競輪大好きじゃないですか。
矢作:確かに、豊と俺の会話は競輪のことばかり(笑)。俺がなぜギャンブルをやるかっていったら、それがなかったら24時間、365日、馬のことを考えてると思うんだよね。
キャプテン:日々、張りつめているからこその息抜きだと。
矢作:そうだね。もちろん前提として好きなんだけどね。どんなに美しい女性と出会っても、競輪への愛には敵わない(笑)。
キャプテン:あ、僕もそうです(笑)。
キャプテン:ちなみに、年間これだけ車券を買っていて、その収支というのは…。
矢作:毎年、高級車一台分くらい…。
キャプテン:プラス!?
矢作:マイナスです(笑)。それでもね、なぜ競輪をやるかというと、やっぱり面白いから。この業界に入る前は競馬も散々やったし、カジノ、麻雀、オートなんかもやっているけど、最後に行きつくのは競輪なんだよね。将棋をやる人には競馬好きも麻雀好きも多いけれど、彼らも最終的に行きつくギャンブルは競輪だっていうし。
キャプテン:それは僕も聞いたことがあります。なぜなんですかね?
矢作:それはね、人の心を読む競技だから。こいつは先輩を背負っているから行くでしょとか、ここは強気に行く、ここは遠慮するとか、そういう人間の心理を読まないと当たらない博打なので奥が深い。
キャプテン:なるほど。作家であり、雀士でもある阿佐田哲也先生も同じことを言ってましたから、それは間違いないですね。
──競馬はもちろん競走馬が主役ですが、競輪ほどではなくとも、ジョッキーの心理戦という側面もあると思うんです。結末を推理するという意味では、共通する醍醐味があると思うのですが、決定的な違いというと、やはり“ライン”ですか?
矢作:そうですね。競輪は競馬以上に展開が大事になってきますから。競輪ファンならではの用語で「できた!」っていうのがあるんです。最後の1周前に自分の予想通りの選手が先頭に立って、予想通りの選手が中団を取って、予想通りの選手が後方に置かれたりすると、「できた!」となる。まぁなかなかそこまで上手くいくことはないんだけどね。その展開を当てる醍醐味というのが、競輪にはありますね。
──展開を読むということは、ラインを読むということ。選手同士が、同じ地区、同じ県、同じ競輪場といった要素でチームを組むわけですが、先生の場合、出走表に並ぶ9人を見たら、その日のラインがパパッと浮かぶわけですよね?
矢作:もちろんです。
キャプテン:「ラインを読む」とかいうと、競輪へのハードルが上がってしまうと思うんですが、その日のラインは新聞に載っているので、覚える必要はないんですよ。あと、競馬でいうパドックのような「顔見せ」という時間があって、そこでラインはわかりますからね。
矢作:そうだね。簡単にいうと、4コーナーまではラインをベースとした団体戦、直線は個人戦。実際、選手に聞いてもそういう言い方をする。
──それはわかりやすい表現ですね。人間の複雑な心理が絡み合うからこそ、そこにドラマが生まれる。競輪が人間ドラマといわれる所以がわかったような気がします。さて、後半では、そういった人間ドラマの筋書きを読み解きながら、今年のKEIRINグランプリの“答え”を導き出していきたいと思っています。
キャプテン:わかりました。先生、いろいろ教えてください!
矢作:うん。俺の答えはもう決まってる。
キャプテン:頼もしい!
──ではさっそく、「これさえ読めば当たり間違いなし!」のグランプリ予想を。具体的な買い目に入る前に、この記事を読んでくださっている競輪初心者に向けて、先生とキャプテンさんが思う今年の見どころを教えてください。
キャプテン:僕がまず気になるのは、東京オリンピックを控えているナショナルチームの脇本雄太と新田祐大ですね。オリンピックでも注目の強豪選手ですが、今年はワールドカップなどへの参戦で日本の競輪を休んでいたわけじゃないですか。そのあたりの影響について、先生はどう思います?
矢作:そこは難しいところだよね。難しいんだけど…、ワールドカップの戦績を見る限り、おれは逆にパンプアップしていると思う。だから、とてつもなく強い可能性があるよ。
キャプテン:なるほど。
矢作:今のナショナルチームの強化ぶりはかなりのもので、以前は日本の選手は世界で通用しなかったのに、今は十分通用しているからね。だから、脇本が逃げ切って、ラインの村上博幸が2着というのが本線。つまらないかもしれないけど、当然の読みだよね。
キャプテン:先生、逃げるのはやっぱり脇本ですか?
矢作:それは間違いない。今年のグランプリのラインは、2対2対2と単騎3人。これはもう決まってる。具体的にいうと、(3)脇本-(9)村上ライン、(5)清水裕友-(2)松浦悠士ライン、(7)新田-(4)佐藤慎太郎ライン、それに(1)中川誠一郎、(6)郡司浩平、(8)平原康多が単騎。このなかで誰が逃げるといったら、脇本以外に考えられないんだよね。
キャプテン:単騎の選手は逃げませんからね。
矢作:そう。単騎で逃げても潰れるだけで、基本的に単騎の選手は、展開の乱れをついてのマクリ一発狙いだから。とにかく逃げるのは脇本。8割以上の確率で逃げると思う。ここまで逃げる選手が読めるレースはなかなかないよ。
キャプテン:僕は古い競輪ファンなので、「逃げイチは目をつむって買え」と教わってきたんですよ。ある意味、競馬もそうですよね。今回の場合、その逃げイチの脇本が一番強い選手なわけですから、基本的に脇本は負けてはいけないと思うんですよね。だって、誰も行きたくないなか、自分でレースを作れるんですから。
矢作:まぁそうだよな。ただ、ここで課題になるのが、舞台は立川だということ。直線が長いし、冬の立川は重いバンクだから。
──“重いバンク”というのはどういうことですか?
矢作:空気が重いということ。気温が下がれば下がるほど空気が重くなるので。
キャプテン:逃げる選手は、当然ながら一番空気抵抗を受けますからね。
矢作:そう。だから逃げには不利なバンクなんだよなぁ。これがドーム(前橋競輪場、小倉競輪場)とか軽いバンクだったら、脇本で鉄板と言い切ってもいいくらいなんだけど、そうじゃないところが今回の推理の肝で。
──ここまでをまとめると、逃げる選手に不利な立川、でも一番強いのは逃げイチが予想される脇本選手…ということでいいですか?
矢作:はい。だから正統派の予想をすれば、(3)脇本→(9)村上、(9)村上→(3)脇本になると思います。でも、それじゃあ面白くない。
──ド素人意見で大変恐縮ですが、“捨て身の逃げ”みたいな選手が出てくる展開は考えられないんですか?
矢作:ないよ(笑)! なんせ1着賞金は1億円だからね。2着だと2000万円くらいに減ってしまうわけだから、当然みんな勝ちにいく。“捨て身”なんていうのはあり得ない。
キャプテン:有馬記念の1着賞金が3億円で、ジョッキーの取り分は5%だから1500万円。そう考えると、一発で1億円という威力は凄まじいものがありますからね。
──大変失礼しました(苦笑)。ちなみに、脇本選手と同じナショナルチームの新田選手の可能性は?
矢作:新田は当然一発マクリ狙い。新田が出ているレースは本当に困るんだよなぁ。強いときは本当に強いから。最終バック(最終周のバックストレッチ)は、脇本・村上の後ろで清水、平原、郡司あたりがもつれて…。
キャプテン:そこを新田が最後にマクってくると。
矢作:そうだね。新田のマクリだけは否定できない。でも、ラインの佐藤が新田についてきたら、佐藤が突っ込んでくる可能性はあるよ。だから、穴を狙うんだったら、佐藤の2着。俺、たぶん買うな。
キャプテン:で、先生の頭は…。
矢作:さっきも言ったけど、普通に考えれば脇本か村上なんだけど、俺はあえて松浦の頭でいく。
キャプテン:松浦は競輪祭を勝ったんですものね。
矢作:うん。それにね、松浦は友達で、すごくいい男なんだよ。松浦と清水は今回もラインなんだけど、競輪祭では清水に逃げてもらって、初めてGIを勝った。清水はもうグランプリが決まっていたし、松浦も完走すれば決まりだったんだけど、その前にどうしてもGIを獲りたいという一戦でね。そういう場合、自分が勝てばいいわけだから、普通は思いっ切り清水を抜きにいくものなんだけど、松浦は4コーナーまで清水を残そうとして。
キャプテン:なるほど!
矢作:逃げ馬と一緒で、早めにかわしてしまえば自分が楽になるのに、ギリギリまで待って待ってゴール寸前に差した。
キャプテン:だから清水が2着に残れたんですね。
矢作:そう。もちろん技術もあるんだけど、清水とワンツーを決めたいっていう松浦の気持ちが見て取れたし、それを初めて自分がGIを獲れるかもしれないという決勝戦の舞台でやってのけた。あの男の度胸は、すごいものがあると思ったね。
キャプテン:なるほど~。そういうのがあるから競輪は面白いんですよね。松浦選手は、脚力的にはどうなんですか?
矢作:このメンバーでも、3本の指に入る脚力だと思う。強いよ。
キャプテン:ということは、先生の予想通り、頭もあるわけか…。
矢作:あるある! 正直、心情込みの予想だけど、本命は(2)松浦、対抗が(4)佐藤。▲が(3)脇本で、×が(1)中川と(9)村上。グランプリは有馬記念と同じで、その一年、世話になった選手とか、大好きな選手を買うっていうレースだと思う。そういう意味も込めての結論です。
キャプテン:あえて正統派の(3)-(9)、(9)-(3)は買わないんですね。僕はやっぱり、競輪の醍醐味である強い選手が強い勝ち方をするところが見たいので、(3)脇本には重い印を打ちます。あともう一人、頭でくる可能性があると思っているのが、早めに脇本を捕まえにいくかもしれない(5)清水。このふたりから、先生が一発あるとおっしゃっていた(4)佐藤を押さえます。これで決まり!
──有馬記念で負けても、東京大賞典で負けても、まだKEIRINグランプリがある。最後の最後に夢が見られるかもしれませんね。
矢作:グランプリはそういう舞台だと思います。競馬は常に一発勝負だけど、競輪のGIは基本的には勝ち上がり戦。そんななか、グランプリだけは一発勝負だからね。そういう意味では、競輪ファンにとっては有馬記念に匹敵するレースだから。
キャプテン:僕もそう思います! お祭りですからね。有馬記念が競馬の祭典なら、KEIRINグランプリは競輪の祭典ですよ。
矢作:競輪祭を勝ったあと、松浦とLINEしたんだよ。「お互い、グランプリを獲ろうね」って(取材後、見事リスグラシューで有馬記念を制覇!)。
キャプテン:おー!!! じゃあリスグラシューが有馬記念を勝ったら、グランプリは松浦だ!
矢作:そうなったら、俺にとっては最高の締めくくりだね。好きな馬とか好きなジョッキーが競馬の入り口になるように、競輪は好きな選手を見つけることが第一歩。難しいことは考えずに、まずは出身地だったり脚質だったりで応援したい選手を見つけて、その選手の走りを通して競輪の面白さを知ってほしいね。
(文中敬称略、了)