先日、「競馬と文学」というテーマで25枚ほどの原稿を書いた。そのとき読んだ資料に、競馬を題材とした小説として、芥川龍之介の短編「馬の脚」(大正14年『新潮』)が紹介されていた。 芥川が競馬を題材にした小説を書いていたとは、驚いた。実際、「馬の脚」を読んでみたら、もっと驚いた。 どんな作品かというと、だ。 忍野半三郎(おしのはんざぶろう)という、たいしたことのない男がいた。北京で働いていた半三郎は脳溢血で死んだ。が、彼は自分が死んだことを知らずに過ごしていた。すると、両脚が腐ってしまったので、死んだばかりの馬の脚と付け替えた。半三郎の脚は勝手に動き出したり、凄まじい脚力を発揮したり、それを見た妻…